設例
被相続人が12月30日に死亡したとします。被相続人は、12月決算で期末配当を行う上場会社の株式を保有していました。
期末配当の基準日は12月31日ですが、証券会社の年末の案内などでは「12月31日は取引所の休業日であるため、権利確定日は12月30日」と説明されることがあります。この場合、配当期待権を相続財産として計上する必要があるのでしょうか。
結論
配当期待権を相続財産として計上する必要はないと考えられます。判定の起点は配当金交付の基準日であり、基準日が12月31日であれば、12月30日の相続開始は「基準日の翌日から」の期間に入らないためです(財産評価基本通達168(7))。
ただし、上場株式の評価では配当落ちの調整を検討する必要があります(評基通170)。配当期待権を別建てで計上しない代わりに、配当落ち前の株価で株式を評価するという関係になり、「配当のことは一切考えなくてよい」という結論にはなりません。
判定の起点は基準日であり、効力発生日は終期を画すにすぎない
配当期待権は財産評価基本通達に次のとおり定義されています。
この定義は期間の始期を基準日の翌日、終期を効力発生日としています。したがって計上要否の判定は基準日を起点に行い、効力発生日は期間の終わりを画すだけで、始期の判定には関係しません。
なお、同じ通達168の各号のうち、配当期待権は(7)であり、(6)は株式無償交付期待権です。配当期待権の評価方法は評基通193に別途定めがあります。
会社法上の「基準日」と証券実務の「権利確定日」は別の概念
基準日は定款等で定めるカレンダー上の一日
2 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。
3 株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の二週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない。 会社法124条
条文上、基準日を取引所の営業日に限る定めはありません。したがって12月31日を基準日と定めることは有効であり、12月決算会社では定款で「毎年12月31日」と定めるのが一般的です。同条2項により基準日から3か月以内に権利を行使させる必要があるため、翌年3月下旬の定時株主総会で配当を決議する例が多く見られます。
「権利確定日」は売買・決済実務の用語
証券実務でいう「権利確定日」は、いつまでに買えば配当を受け取れるかを逆算する起点として使われます。株式の受渡しは約定日の2営業日後(T+2。2019年7月16日約定分から)に行われ、取引所は12月31日を休業日としているため、年末は大納会を権利確定日と呼ぶ慣行があります。
年末の「権利確定日」は、年によって12月30日、12月29日、12月28日と動きます。いずれもその年の大納会の日付です。
定款で定めた基準日が年ごとに動くことはあり得ませんので、この「権利確定日」は基準日ではなく年内最終営業日を指していることが分かります。取引所の規則も、権利確定日が休業日に当たるときは配当落日を1日繰り上げる扱いとしており、基準日が12月31日であることを前提に組み立てられています。
発行会社のIR資料を確認すると、12月決算会社は「期末配当金の基準日は12月31日」と記載しているのが通例です。「権利確定日は12月30日」という表記は、多くの場合、証券会社や株式情報サイトの側の説明です。相続税の判定に用いるのは、あくまで定款等で定められた会社法上の基準日となります。
| 用語 | 意味 | 12月決算会社の年末の例 |
|---|---|---|
| 基準日(会社法124条) | 会社が定款等で定める暦日。休業日でも成立する | 12月31日で固定 |
| 権利確定日 | 定義上は基準日と同義だが、表示上は年内最終営業日に読み替えられる | 大納会(12月30日等、年により変動) |
| 権利付最終売買日 | 権利確定日の2営業日前。この日の大引けまで保有が必要 | 大納会の2営業日前 |
| 権利落ち日(配当落ち日) | 権利付最終売買日の翌営業日 | 大納会の前営業日 |
基準日当日に相続が開始した場合
仮に定款で基準日そのものを12月30日と定めている会社があったとしても、結論は変わらないと考えられます。通達が「基準日の翌日から」と明記している以上、基準日当日に相続が開始した場合は配当期待権の発生期間に含まれないためです(評基通168(7))。
会社法上も、基準日株主は基準日において株主名簿に記載されている株主とされており(会社法124条1項)、基準日当日の終了時点で確定すると解されています。基準日当日に相続が開始していれば、その時点の株主は相続人ということになります。
見落としやすい点 — 株式の評価では配当落ちの調整が必要になる
12月30日という課税時期は、通常この区間に含まれます。基準日が12月31日であっても、実際の権利落ちは12月29日前後に生じるためです。
この調整は「基準日までの間」に適用されるため、基準日が12月31日でも12月30日でも同じように働きます。評基通171(3)や172が「基準日以前」と「基準日の翌日以後」で線を引いており、基準日当日は一貫して「以前」の側に属する構造になっていることとも整合します。
権利落ち日は年によって異なります。権利付最終売買日は大納会の2営業日前になるため、12月31日から数えると1営業日ずれます。仮に大納会が12月30日、権利落ち日が12月29日、権利付最終売買日が12月26日という年であれば、12月30日の終値ではなく12月26日の終値を課税時期の最終価格として用いることになります。相続開始年の取引所カレンダーで実際の日付を確認する必要があります。
評基通170で置き換わるのは課税時期の最終価格だけです。上場株式は、課税時期の最終価格と、課税時期の属する月以前3か月間の各月の最終価格の月平均額とを比較し、最も低い価額で評価します(評基通169(1))。配当落ちの場合の月平均額はその月の末日までの通常の平均額とされているため(評基通172(1))、株価の動き方によっては月平均額のほうが低くなり、そちらが採用されることもあります。
対象銘柄に期末配当がない場合は、そもそも配当落ちが生じませんので評基通170の適用はなく、課税時期の終値をそのまま用いることになります。
裁判例における配当期待権と配当落ちの関係
配当期待権が相続税の課税財産に当たるかが争われた事案で、裁判所は次のとおり判示しています。
裏を返せば、基準日前の課税時期であれば株価に配当相当額が含まれているという理解になり、評基通170による調整と整合します。
配当金そのものは相続人の配当所得になる
基準日前に相続が開始している以上、配当を受ける権利は相続人に帰属します。配当所得の収入すべき時期は次のとおり定められています。
(1) 法第24条第1項(配当所得)に規定する剰余金の配当(中略)については、当該剰余金の配当等について定めたその効力を生ずる日。ただし、その効力を生ずる日を定めていない場合には、当該剰余金の配当等を行う法人の社員総会その他正当な権限を有する機関の決議があった日。 所得税基本通達36-4
翌年3月下旬の総会で効力が生じる期末配当は、相続人の配当所得になると考えられます。相続財産には計上せず、被相続人の準確定申告の対象にもなりません。
ただし、死亡日までに効力が生じていた中間配当などがある場合は、被相続人の死亡年分の準確定申告の対象になります。株式の配当が一律に準確定申告の対象外になるわけではない点に注意が必要です。
実務上は、名義書換が済むまで振替口座簿の記録が被相続人名義のままとなるため、配当金計算書や支払通知書が被相続人宛に届き、源泉徴収も被相続人名義で行われることがあります。書類の名義にかかわらず、配当所得は帰属者のものとして取り扱うことになると考えられます。
遺産分割が未了の場合、相続財産から生ずる所得は各共同相続人にその相続分に応じて帰属するものとされ、分割が確定してもその効果は未分割期間中の所得の帰属に影響しないとされています(国税庁タックスアンサーNo.1376、個人課税課情報第7号)。実務上は株式を取得する相続人が配当も受け取る形で分割することが多いものの、所得税の帰属は法定相続分による点に留意を要します。
NISA口座で保有していた場合
被相続人がNISA口座で株式を保有していた場合、死亡によりNISA口座は終了し、死亡日の時価で相続人の課税口座へ移管されます。相続人のNISA口座に引き継ぐことはできないため、死亡日以後に支払われる配当は非課税になりません。
年末に相続が開始し、その直後に期末配当を受けるという場面では影響が出ますので、口座区分の確認が必要です。
相続開始日の位置による整理
| 相続開始日の位置 | 相続財産 | 配当所得の帰属 |
|---|---|---|
| 基準日以前 | 株式の評価額のみ (配当落ちの調整あり/評基通170) |
相続人 |
| 基準日の翌日 〜 効力発生日の前日 | 株式 + 配当期待権 (評基通168(7)・193) |
相続人 |
| 効力発生日以後 〜 支払日前 | 株式 + 未収配当金 (確定した金銭債権/評基通204) |
被相続人(準確定申告) |
| 支払日以後 | 株式 + 受領済みの現預金 | 被相続人(準確定申告) |
配当期待権と未収配当金の区別は、呼称ではなく効力発生日との前後関係で判定します。実務では確定前の配当を「未収配当金」と呼ぶこともあるため、名称に引きずられないほうが安全です。
参考 — 配当期待権を計上する場合の評価
上場株式で大口株主等に該当しない場合、控除する割合は20.315パーセント(所得税および復興特別所得税15.315パーセント、住民税5パーセント)となります。控除する「源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額」に復興特別所得税の額に相当する金額を含めることは、国税庁質疑応答事例「源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額(復興特別所得税の取扱い)」で示されています(関係法令通達に評基通193が明示されています)。
配当期待権に相続税が課され、後に受け取る配当に所得税が課されることの当否については、大阪地方裁判所令和3年11月26日判決(税務訴訟資料271号-133、同271号-134)で正面から争われ、いずれも納税者の請求が棄却されています。
同判決は、所得税法67条の4が課税の繰延べを定めたものであり、配当期待権に相続税を課したうえで実現した配当に所得税を課しても違法な二重課税には当たらないとしています。国税不服審判所でも同旨の裁決が出ています(令和3年9月30日大阪裁決)。実務上は通達どおりに処理することになります。
確認しておきたい資料
- 定款の基準日条項(会社法124条3項ただし書により、定款に定めがあれば公告が不要とされるため、定款または有価証券報告書での確認が確実)
- 有価証券報告書の「株式事務の概要」(基準日、剰余金の配当の基準日が記載される欄)
- 定時株主総会招集通知(基準日、1株当たり配当金、効力発生日)
- 決算短信の配当の状況欄
- 相続開始年12月の取引所カレンダーと各日の終値、10月から12月の月平均額
- 証券会社の残高証明書(口座区分がNISAかどうかを含む)
- 配当金計算書、配当金支払通知書
根拠条文・資料
- 財産評価基本通達168(7)(配当期待権の定義)、169(1)(上場株式の評価)、170(課税時期が権利落等の日から基準日までの間にある場合の最終価格の特例)、171(3)・172(最終価格・月平均額の特例)、193(配当期待権の評価)、204(貸付金債権等の評価)
- 会社法124条(基準日)、454条1項3号(剰余金の配当の効力発生日)
- 所得税所得税基本通達36-4(1)(配当所得の収入すべき時期)、所得税法125条(年の中途で死亡した場合の確定申告)、所得税法67条の4
- 裁判例・裁決大阪地方裁判所令和3年11月26日判決(税務訴訟資料271号-133、同271号-134)、国税不服審判所令和3年9月30日大阪裁決
- 公表資料国税庁タックスアンサーNo.1330(配当所得)、No.1376(未分割遺産から生ずる不動産所得)、No.2022(準確定申告)、個人課税課情報第7号、質疑応答事例「源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額(復興特別所得税の取扱い)」
- その他日本取引所グループ公表の休業日・決済期間(T+2)に関する資料